鼎談-上-【野間易通+高英起+李策】ヘイト本はいかに蔓延したのか…社会の雰囲気を歪める出版の「広告主義」


 朝鮮学校は反日教育をしていない、と言い切る内容だったよね。本のタイトルから受ける印象とは逆の話だった(クリック⇒全文掲載「民族学校に反日教育はあるか?」)。

野間 あの本の表紙は最悪やったですね。タイトルだけやなくて、「朝鮮人タブーのルーツから、民族団体の圧力事件、在日文化人の世渡りまで!」というタタキ文といっしょに「架空口座と脱税」「通名と本名」「減免税特権」「生活保護疑惑」なんていう具体的な文言が並んでいる。それでいて、内容としてはこれらの多くを否定するものだった。

 原稿の依頼を受けたときの状況を話すと、編集者からは最初、「朝鮮学校の反日教育について書けないか」と打診されたんです。それに対して「いや、反日教育なんかしてないですから」と答えたら、「ああ、そうなんだ。じゃあそのことを書いてください」という話になった。

 タイトルでは煽りながら、中身についてはデータに基づいて作るという、むかしの別冊宝島にはよく見られたスタイルですね。

野間 あの本、普通の別冊宝島よりだいぶページ数が少ないでしょ。あれはいざ「在日特権」について調べてみたら、大して書くべき事実が出てこなくて薄くなってしまったって感じ?

 いや、企画の段階からあのボリュームでした。『マンガ嫌韓流』が売れていたから、宝島社としても「コンパクトなものを急いで作ってたくさん売ろう」というノリだった。

週刊誌編集長「何でもいいから韓国ネタを」

野間 いずれにしても、在日の実情をしらない人があの表紙を書店やネットで目にすれば「こういうものが在日特権なのだな」と思うでしょう。そういった意味で、あの本がもたらした弊害は大きい。

 いまの空気からしたら、たしかにその通りです。正直なところ、路上でヘイトスピーチが横行するような状況は誰も予想していなかった。あの本の書き手のひとりが言っていました。「こうやって検証してみれば『なんだ在日特権なんか無いじゃないか』ということが分かって、みんな大人になっていく」と。ところが、そうはならなかったんです。