北朝鮮は今後どうなる…建国70周年と米朝関係、非核化

北朝鮮は9月9日、建国70周年を迎えた。

金正恩国務委員長(朝鮮労働党委員長)国際社会からの強力な制裁に抗いながら、2017年中に核兵器の「完成」を宣言。2018年に入ってからは対話路線に大きく方針転換し、韓国の文在寅大統領、中国の習近平国家主席と相次いで会談。6月にはトランプ米大統領との、史上初の朝米(米朝)首脳会談を実現させた。

34歳の若さでのこの「実績」は、実際のところ、祖父の金日成主席や父・金正日総書記と比べても遜色のないものと言えるだろう。

「ゴール」は2020年

では、北朝鮮の今後はどうなるのだろうか。それはひとえに、非核化の進展と、米朝関係の改善にかかっていると言える。

北朝鮮が今後どうなるかを占う上で、まず時期的なゴールとして見えてきたのが、2020年だ。金正恩氏は9月5日に訪朝した韓国の大統領特使団と会った席上、トランプ氏の1期目の任期内に非核化を実現し、朝米関係を改善したいとの意向を示した。次の米大統領選挙は2020年11月に予定されている。

(参考記事:「非核化、トランプ氏の1期目の任期内に」金正恩氏が表明

トランプ氏も容認

こうした金正恩氏の発言に対し、トランプ米大統領は同月6日、米モンタナ州での集会で行った演説の中で「素晴らしい」と評価。北朝鮮の非核化について「ゆっくりやればいい」と述べ、長期化を容認する姿勢を示した。

トランプ氏は8月下旬、ポンペオ米国務長官の訪朝中止を発表した際、「非核化に関して重要な進展が見られない」と不満を表明していた。しかし、米朝両国は今後、時にこうした曲折を経ながらも、2020年の恐らく半ばごろを見据え、非核化のための対話を続けていく可能性が高い。

北朝鮮では党大会

ちなみに2020年は、北朝鮮で朝鮮労働党の第8回党大会が予定されている年でもある。

党大会は、北朝鮮で最も権威の高い大会だが、2016年5月に第7回大会が行われるまで36年間も開かれなかった。破たんした経済政策の総括が困難だった事情に加え、金正恩氏の父である金正日氏が、党や行政上の手続きを踏むよりも、自らの裁量で機動的に(自由気ままに)物事を進めることを好んだためだ。

金正恩氏は「有言実行」

それに対して金正恩氏は、重要政策を公の場で自ら宣言し、その成果を公の場で総括する「有言実行」スタイルだ。これは、核兵器開発においても見られた。金正恩氏は間違いなく、2020年を自身と北朝鮮にとって重要な節目とする考えを持っている。

ちなみに、金正恩氏が推進する大規模な建設プロジェクトは、いずれも2019年から2020年にかけての完成が厳命されている。ただ、建設工事に関する北朝鮮の能力に比べ、ムリな工期設定がなされているとの指摘があり、事故多発や工期の遅れも懸念されている。

(参考記事:金正恩氏の背後に「死亡事故を予感」させる恐怖写真

「裕福で文化的な生活」目標

朝鮮労働党中央委員会は4月20日に平壌で行われた第7期第3回総会で、核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を停止するとの決定書を採択。同時に、今後は経済建設に注力するとの方針を示した。

(参考記事:北朝鮮「核・ICBM実験停止」を決定、核実験場も廃棄

金正恩氏は総会で行った演説で「わが共和国が世界的な政治・思想強国、軍事強国の地位に確固と上がった現段階で全党、全国が社会主義経済建設に総力を集中すること、これがわが党の戦略的路線である」と宣言。続けて「人民経済の主体化、現代化、情報化、科学化を高い水準で実現し、全人民に何うらやむことのない裕福で文化的な生活を与える」との目標を示した。

幹部を処刑

「有言実行」を自身のポリシーとする金正恩氏にとって、これは非常に重い課題である。

金正恩氏は最近、経済部門の視察に力を入れており、現場の担当幹部を激しく叱ることも珍しくない。金正恩氏は2015年8月、スッポン養殖工場の管理状態が「なっていない」と激怒し、支配人を処刑してしまったことがある。

(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導

それを知る各現場の担当幹部たちは、さぞや生きた心地がしないだろう。

「終戦宣言」にこだわる理由

金正恩氏にとっては、すでに宣言してしまった経済発展を達成するためにも米朝関係の改善は必須であり、いますぐにでも必要になるのが朝鮮戦争の「終戦宣言」だ。

北朝鮮の建設現場や農場で重要なマンパワーとなっているのが、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士たちだ。今後、経済建設にいっそう注力するためには、こうした現場により多くの兵力を振り向けなければならない。また、兵器開発や各種装備の維持・管理に投じられているコストを、大幅に削減する必要もある。

北朝鮮が米国に対し、早期の終戦宣言を強力に要求するのは、関係改善を象徴する「ステップ」としての意味もあろうが、「経済重視」にシフトする根拠としても重要であるためと思われる。

投資は中国と韓国から

北朝鮮経済の好転のためには、外部からの投資も必要になるが、この点で金正恩氏が期待しているのは、米国ではなく中国と韓国だろう。

トランプ氏は7月20日、北朝鮮人権法を2022年まで延長する法案に署名し、成立させた。同法は、北朝鮮の人権問題が改善しない限り、米国が北朝鮮に対して人道支援以外の援助を禁じるものだ。

(参考記事:金正恩氏がトランプ氏に「言いたくても言えない」あの問題

これにより、米国政府は北朝鮮に対して経済支援を行うことができなくなっているのだ。実際、ポンペオ米国務長官は5月9日に金正恩氏と会談した後に行われたFOXテレビのインタビューで、北朝鮮が完全な非核化に応じた場合、見返りとして民間資本を主体とした経済支援を行うことについて言及している。

災害のダメージ

民間資本による投資では、北朝鮮にとって必要な道路・電力・港湾などのインフラ整備には不足する可能性がある。だから大型の資金援助は、やはり中国や韓国に頼ることになるのだろうが、この両国としても、米朝関係が良好でなければ自由に動くことはできない。

もっとも、たとえ米朝関係がうまく行ったとしても、それだけで北朝鮮の未来が明るいと言えるわけはない。北朝鮮は毎年のように、自然災害によって手ひどいダメージを受けている。こんなことが続いていたら当然、経済全体にシワ寄せが行く。

(参考記事:金正恩氏の「権威失墜」…北朝鮮の危険指数は世界最悪レベル

しかしいずれにせよ、北朝鮮が今後どうなるかを占う上で、最大の焦点が米朝関係であることは今後も変わらないだろう。

南北首脳会談に注目

そして当面の動きとして注目したいのは、韓国の文在寅大統領が9月18日から訪朝し、2泊3日で行う南北首脳会談の結果だ。前述した韓国の大統領特使団が北朝鮮側と合意した会談の議題には、朝鮮半島での恒久的な平和定着および共同繁栄のための問題、特に朝鮮半島の非核化に向けた実践的な方案が含まれるという。

金正恩が非核化の代償に米韓へ突きつけた要求の「中身」

6月12日に開催された米朝首脳会談と前後して、北朝鮮では憲法改正に向けた動きが見られるという。非核化に伴うもののようだが、約束を反故にし続けてきた北朝鮮にしては素直すぎる。その背景には、別の要求を米韓がのんだことがあるようだ。朝鮮総連で活動後、フリーライターとして活躍する李策氏に緊急寄稿してもらった。

最高人民会議の代議員選挙を前倒しする目的は憲法改正か

北朝鮮と面した中国の国境都市・丹東で活動する脱北者のジャーナリストによれば、北朝鮮国内に、最高人民会議の代議員選挙を前倒しする動きが見られるという。

最高人民会議は日本の国会に当たり、選挙は5年に1回行われる。前回は2014年3月だったから、次回選挙は本来なら2019年のはずだ。

「朝鮮労働党が5月20日付けで、共和国創建日(建国記念日)の9月9日までに選挙を行うという指示を、地方組織に伝えたらしい。早ければ今月中にも布告が出て、8月末までに実施されるだろう。この間の病死や粛清による欠員を埋めるのが目的」(ジャーナリスト)

これが事実ならば、前倒しの目的は何か。考えられるのは憲法改正である。

北朝鮮は2012年に憲法を改正し、序文に「核保有国」としての立場を明記した。米韓と約束した「完全な非核化」を実行するためには、憲法を再改正してこれを外す必要がある。

北朝鮮の憲法改正には、代議員の3分の2の賛成が必要になるが、北朝鮮の法的・行政的手続きは「全会一致」が原則。憲法改正という一大事に向け、金正恩委員長が代議員の顔ぶれ一新を考えたとしても不思議ではない。

もっとも北朝鮮の選挙は、党が推薦した候補者に賛成票を投じるだけ。最高人民会議も、党が出した法案や政策案を追認するだけの「シャンシャン総会」だ。日本や他の国ほどに、憲法改正に「重み」があるわけではない。

それでも憲法は憲法であり、対外的なパフォーマンスにはなる。そして今、このパフォーマンスを最も喜ぶのは、6月12日に開催された米朝首脳会談の結果に対し「具体性に欠ける」「譲歩した」との批判を受けた、トランプ米大統領だろう。

北朝鮮の人権侵害を矮小化するトランプ大統領の意図

金委員長は、憲法改正のほかにも、「完全な非核化」に向けた措置を次々と繰り出し、首脳会談での共同声明をトランプ大統領とともに死守すると見られる。なぜなら、金委員長にとって「共同声明」はそれだけの価値があるからで、その価値はトランプ大統領の“人権問題軽視”が明らかになったことで、より大きなものになった。

トランプ大統領は米朝首脳会談後、米FOXニュースのインタビューに応じ、北朝鮮以外の他の国々も「悪事」を働いてきたと述べ、金正恩政権の人権侵害を矮小化して見せた。

金正恩体制が存続する上で最も重要なのは人権侵害について他国、とりわけ米国から干渉を受けないことだ。というのも、金委員長の独裁権力を担保しているのが「恐怖政治」だからであり、それを続けるには人権になど配慮していられないためだ。

それに比べれば、核戦力を維持するかどうかは副次的な問題でしかない。実際、北朝鮮は核問題に関してトランプ大統領の“ディール”に応じているわけだが、北朝鮮には6回もの核実験データがあるし、何より天然ウランがある。いったん「完全な非核化」を実行したとしても、独裁権力を握る金委員長が決断すれば、相当な困難を伴うにせよ、再度の核武装は不可能ではない。

一方で、人権問題についてはそうはいかない。そのため、人権問題を「絶対に持ち出すな」とのメッセージを、米韓に対し国内メディアを通じて繰り返し発信してきたのだ。

経済発展を進めるための不可侵の約束に近い

ところで、多くのメディアは共同声明について、北朝鮮の「体制保証を約束」したものであると報じている。

朝鮮中央通信が公表した声明の全文を見ると、「トランプ大統領は、朝鮮民主主義人民共和国に安全保証を提供することを確言」「(両国は)恒久的で強固な平和体制を構築するために共に努力する」という文言がある。

筆者は、これがなぜ「体制保証を約束」したものであると読めてしまうのか、どうしても解せない。素直に読めば、「米国は北朝鮮に戦争を仕掛けない」という意味であり、体制保証というより“不可侵の約束”に近いだろう。

そもそも、「米国に、金正恩体制の存続を保証することなど不可能だ」との意見は、米韓の北朝鮮ウォッチャーの間に根強い。いずれ金正恩体制が崩壊を迎えるとすれば、その原因は「体制内部の矛盾」の激化であるはずだ。米国には、それを食い止める力もなければ、意思もない。

金委員長も、それくらいのことは分かっている。彼の主眼は経済発展を実現し、それにより内部の矛盾を解消していくことにある。それを公式化したのが、核実験と大陸間弾道ミサイルの発射実験を停止し、今後は経済発展に注力することを宣言した、朝鮮労働党中央委員会第7期第3回総会(4月20日)の決定だ。

米国の“お墨付き”を得て韓国にも要求をのませる

ただ、北朝鮮が独力で高い経済成長を達成するのは、ほとんど不可能だ。韓国と中国の支援は必須であり、そこに日本が加われば最高だろう。

問題は、今の世の中、国際社会から人権問題で非難され続けていては、日韓のような民主主義国家から大規模な支援を受けるのは難しくなっていることだ。だがそれも、米国の“お墨付き”があれば話は変わってくる。

金委員長は、核兵器開発をやり抜いて情勢の危機を最大化させ、米国を交渉の場に引っ張り出した。そして、せっかく作った核兵器を捨ててみせることで、「人権問題には口を出さない」という約束をトランプ氏にのませたわけだ。

ちなみに、この“約束”をのんだのは、トランプ大統領だけではない。

韓国の国会で2016年3月に成立した北朝鮮人権法は、「北朝鮮の人権実態の調査」などを目的に、北朝鮮人権財団を発足させることを定めている。ところが文在寅政権は、まだ正式に発足してもいない同財団事務所の賃貸契約を、今月末で打ち切る方針だ。財政上の理由を挙げているが、背景に北朝鮮に対する気遣いがあるのは明らかだ。

同様に、圧力から対話、さらには日朝国交正常化へと舵を切りつつある日本の安倍政権もまた、同じ要求をのまされる可能性が高い。日本政府は10年以上にわたり、国連人権理事会に北朝鮮の人権状況の改善を求める決議案を、欧州連合(EU)とともに提出してきたにもかかわらずである。

米朝首脳会談を終えた米朝両国は、段階的な非核化に向けた作業に入ったとの報道もある。だが、その裏に隠された本当の“意図”を読み取らなければ、今後の対北朝鮮戦略を見誤ってしまう可能性が高い。

(李策)

金正恩に2年の軍隊経験説、成功体験重ねる33歳指導者の不気味

8月29日に、“日本列島越え”の弾道ミサイルを発射した金正恩だが、最高指導者の地位を継承した経緯には謎が多い。そうした金正恩が、朝鮮人民軍に身分を秘匿して入隊し、一兵卒として軍隊生活を送ったと指摘する専門家がいる。朝鮮総連出身で、今はフリーライターとして活躍する李策氏が取材した。

2005年の初めから2年間身分を隠して朝鮮人民軍に入隊か

故金正日総書記の三男である金正恩朝鮮労働党委員長が、どのような過程を経て父親から最高指導者の地位を継承したかについては謎が多い。

彼が父親の後継者に決まったのは2009年頃のこと。金正恩の誕生日は1984年1月8日とされているから、25歳の時ということになる。

金正恩は、スイスに留学して小中学校に通い、2000年に帰国して以降、金日成総合大学と金日成軍事総合大学で教育を受けたとされている。ただ、国家の指導者となるべく特別な経験を積み、実績を築くには十分な時間がなかったことは確かだ。

だが、金正恩の経歴の“空白部分”について、興味深い指摘がある。

韓国のNGO「北韓戦略情報センター」(NKSIS)の代表で、自身も脱北者である李潤傑(イ・ユンゴル)氏によれば、金正恩は2005年の初めから約2年間、朝鮮人民軍に身分を秘匿して入隊し、一兵卒として軍隊生活を送ったというのである。

李氏によると、スイス留学から帰国して以降、勉強が手につかなかった金正恩の将来を案じた母・コ・ヨンヒが、いずれ父親の権力を継いだ時の助けになればと「武者修行」に送り込むことを決断。コ・ヨンヒは2004年8月に病死するが、その遺志を受け継いだ党と軍の幹部らが、金正恩の極秘入隊を決行したというのだ。

最高権力者の息子として何不自由なく育ち、海外留学まで経験した「世間知らず」な金正恩は、軍隊生活になかなか馴染めず、他の兵士と同様に上官からの「シゴキ」や「イジメ」を経験した。それでも何とか順応し、2006年末に除隊したという。

筆者の知る限り、このようなエピソードを紹介しているのは李氏だけだが、事実なら、金正恩の思考や行動を理解する上で欠くべからざる情報と言えよう。

いずれにせよ、何の実績もなく最高指導者となった金正恩だったが、今となってはもう、そのように言うことはできない。

朝鮮人民軍が弾道ミサイルなどの新兵器を試射するたびに、金正恩は現場で指揮を取り、成功へと導いている。それも、米韓が金正恩に対する「斬首作戦」を進める状況下で、米軍の偵察衛星に自分の身をさらしながらだ。

つまり、一連のミサイル発射は、それ自体が米軍を向こうに回しての軍事作戦なのであり、少なくとも短期的な意味では、金正恩は「勝利」を重ねてしまっているのである。

こうした状況について、現役の自衛官に意見を求めたところ、「朝鮮人民軍の中で、金正恩の権威は高まらざるを得ないでしょう」との返答だった。

今の世の中、まだ33歳の若者がこのような経験を重ねて国家指導者として成長していくというケースは、他に類を見ないものと言える。

ミサイルが列島越えしても慣れて穏やかな日本

片や、北朝鮮と向き合うわれわれ日本の側はどうか。

金正恩が8月29日に強行した弾道ミサイルの「日本列島越え」の暴挙は、金正日も1998年にやったことだ。あの時に巻き起こった日本世論の猛反発ぶりと比べると、今回はずいぶんと穏やかであり、金正恩によってすっかり「慣らされてしまった」と言わざるを得ない。

安倍晋三首相は「これまでにない深刻かつ重大な脅威だ」と言って非難したが、「ではどうするのか」といった問いには答えを持ち合わせていないのである。

これが何を意味するかと言えば、経済制裁で国と国民が傷つくのを顧みず、決然と行動する金正恩に対し、「核武装の完成」という当面の目的を達するために必要とする“領域”を、徐々に譲り渡す形になってしまっているわけだ。

このような「成功体験」を重ねている金正恩は、果たしてどこに向かって突き進んでいくのか。

彼は今、決然と行動することこそが勝利のカギであると確信しているのではないか。筆者は、金正恩がこのままより大きく成長してしまうことに、非常に不穏なものを感じる。

将来の災いの芽を摘むためにも、日米韓はなるべく早い段階で、金正恩の意思と行動をくじいておかねばならない。弾道ミサイルがロフテッド軌道を取らず、通常の軌道でこちらへ飛んでくるのなら、むしろ迎撃し易くなったはずだ。

日米韓は、北朝鮮が遠からず発射するであろう弾道ミサイルの迎撃に全力を挙げ、「物事は必ずしも自分の思い通りにならない」ということを、金正恩に思い知らせるべきだ。

(李策)

北朝鮮、武器売却情報網を通じ「地球規模の乱世」を予想し核開発か

ロシアの大使が北朝鮮を訪問謎多き外務次官と会談

7月下旬、北朝鮮とロシアの間で気になる動きがあった。

北朝鮮国営の朝鮮中央通信によれば、ロシア外務省のオレク・ブルミストロフ巡回大使が7月22〜25日に平壌を訪問。申紅哲(シン・ホンチョル)外務次官と会ったという。

ブルミストロフ大使は北朝鮮の核問題を担当しており、6ヵ国協議が再開することになればロシア次席代表となる要人である。一方、申氏は2013年2月まで駐バングラデシュ大使を務めたという以外、ほとんど経歴が知られていない謎多き人物だ。

ただ、彼がバングラデシュに駐在していた前後、同国と北朝鮮の貿易取引は大きく増加。彼の離任後には、同国の首都ダッカが、北朝鮮の不法な外貨稼ぎの主要拠点となっていることが分かっている。

そして2015年2月に外務次官就任が確認されて以降、申氏はシリア、赤道ギニア、アンゴラ、コンゴなど、北朝鮮との武器取引が疑われる国々を相次いで訪問。特にシリアでは、アサド大統領とも面会している。アサド氏は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働委員長がメッセージをやり取りする、数少ない国家元首の1人だ。

こうした申氏の“動線”を見れば、北朝鮮外務省における彼の役割が、第三世界との「秘められた関係」であることが分かる。では、そのような人物がなぜロシアの核問題担当者と会ったのか。朝鮮中央通信は会談内容をまったく伝えていないが、2人をつなぐキーワードは、おそらくイランだ。

ブルミストロフ氏が北朝鮮を訪問していた頃、米国議会では北朝鮮とロシア、イランに対する制裁強化をひとまとめにした法案が議論されていた(8月2日に成立)。周知のとおり、シリア内戦でアサド政権を支えるロシアとイランは実質的な軍事同盟であり、北朝鮮とイランも兵器開発などで協力関係にある。

北朝鮮とロシア、そしてイランは、米国の動きを受けて、何らかの意見調整を行う必要が生じたものと筆者は見ている。

中東やアフリカ諸国に武器を売りまくり情報収集

北朝鮮はとかく世界から孤立し、情報の流れから遮断された国と見られがちだ。しかし、その見方は正しくない。

例えば、北朝鮮の武器商社として悪名高い朝鮮鉱業開発貿易(KOMID)は、ロシアやイラン、シリア、ナミビア、南アフリカなどに要員を置き、中東やアフリカの紛争地に兵器を売りまくってきた。

彼らが売るのは、最新のレーダーでもなければステルス戦闘機でもない。先進国では「骨董品」と呼ばれるような旧ソ連製戦車のカスタムパーツや、荒れ地でホコリまみれになっても動作不良を起こさないシンプルな構造の機関銃の類である。今日、明日にでも戦う必要に迫られた顧客が望むのは、そのようなタフな兵器の数々なのだ。

つまり、北朝鮮には、いつ、どこで、誰と誰が、何を理由に戦おうとしているのかといった、日本人や韓国人にはとうてい知り得ないような情報が、リアルタイムで寄せられているワケだ。

北朝鮮が、中東やアフリカの国々とこうした関係を結ぶようになったのは、金正恩氏の祖父・金日成主席のころからだ。1973年の第4次中東戦争では、エジプトとシリアに空軍パイロットを派兵してイスラエル空軍と戦わせている。

最近も朝鮮中央通信は、シリアにおけるアサド政権とロシア、イランによる「反テロ作戦」の戦果を頻繁に伝えている。また金正恩氏とアサド氏の関係を見ても、北朝鮮が今なお、この地域に対する高い関心を維持していることが分かる。

ただ、昔と今とでは世界の環境がまるで異なる。

金正恩は地球規模の乱世を予想しているのかもしれない

金日成が中東戦争に派兵したのは東西冷戦の中、東側陣営や非同盟運動の内部で自らの地位を確保するための「損得勘定」をした上でのことだった。イスラム諸国を自らの応援団にすることで、陣営の盟主たる旧ソ連や中国にも自己主張できる“立ち位置”を狙ったわけだ。

一方、金正恩はどうだろうか。世界のスーパーパワーが米国のみとなり、中国やロシアといえども、米国と完全に対立してしまっては繁栄を望むことはできない。そうした中で北朝鮮は、どこまで本気かは別として、米国との「対決」をうたう唯一の国になってしまった。中東やアフリカといくら友好関係を維持してみても、米国と敵対することで生じるマイナスを埋められるとは思えない。

ただし、それは世界が今の形のまま、安定し続けることを前提とするならばだ。

北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は昨年の国連総会で行った演説で、次のように述べた。

「世界ではテロの狂風が吹きまくり、戦乱による難民事態に席巻され、世界的なホットスポットは減るのではなく、反対に増えている。(中略)真の国際的正義を実現して世界の平和と安全を守り、国連が設定した持続開発目標を達成するためには、『正義』の看板の下で不正義が横行する古びた国際秩序を壊し、公正かつ正義の新しい国際秩序を樹立しなければならない」

同様の表現は、ほかの演説文や国営メディアの論評にも数多く見られる。思うに金正恩は、世界の戦地に送った要員から報告される内容に触れながら、地球規模の「乱世」の到来を予想しているのではないか。

例えば、イランとサウジアラビアが衝突したり、先進国が「核テロ」に見舞われたり…。今の状況を考えれば、そうした事態もあながちあり得ない話ではない。世界がそんな混乱の中にたたき込まれれば、「弱肉強食」の度合いが強まり、「強者」すなわち核を握る者が勝つ──。

本当にそうした世の中が訪れるかどうかは別として、まだ30代前半で生い先長い金正恩が、このような世界観を持っていたとしても不思議ではないだろう。

(李策)

なぜ北朝鮮への米空母派遣は「インド洋経由」だったか

北朝鮮による挑発行為への対抗措置として、シンガポールから朝鮮半島近海へ派遣されたはずの米原子力空母カールビンソンが、実際は逆方向にあるインド洋での演習に向かっていたことが分かった。だが、それが判明したのは副大統領が日韓訪問を終えた後で、トランプ米大統領の“演出”だった可能性がある。朝鮮総連で活動後フリーライターとして活動、韓国で取材した李策氏に、米国の狙いについて寄稿してもらった。

「トランプ政権は再検討(review)および改定(reform)を推進する」

ペンス米副大統領は4月18日、ソウル市内のホテルで行った演説で米韓自由貿易協定(FTA)についてこう述べ、韓国政府首脳に動揺を与えた。

トランプ米大統領は選挙中から、米国側の貿易赤字増大と雇用の減少を挙げて米韓FTAの再交渉に言及しており、韓国側からすれば遂に「その時」がやってきた形となったからだ。

それでも、ペンス氏は「招かれざる客」であったわけではない。むしろその逆だ。

父親が米陸軍兵士として朝鮮戦争に参戦したというペンス氏は韓国入りの翌日(17日)、まず非武装地帯(DMZ)を訪問。軍事境界線からわずか25mの所にある見張り台に立ち、北方を睨み据えるパフォーマンスを演じるなどして、「同盟国を守る」という米国の強固な意思を示したのだ。

続いて日本を訪問したペンス氏は、安倍晋三首相との会談、麻生太郎副総理兼財務相との日米経済対話で、韓国での行程をなぞるような動きを見せた。北朝鮮に対する圧力強化を強調しつつ、日本との2国間FTAに言及。自動車や農産物で、日本に厳しい要求を行う姿勢を示唆したのだ。

日本や韓国にとって、トランプ政権との貿易交渉はたいへんな負担だ。今後しばらく、内政と外交の両面で最大の課題となる可能性をはらんでいる。

「開戦前夜」の空気さえ漂う中で副大統領の日韓歴訪は演出の効いたもの

だがそれにしては、世論の反応は淡々としている。理由はいくつかあろうが、トランプ政権が今月8日に発した「カールビンソン急派」の報が、人々の目を北朝鮮に釘付けにしたことも一因と言えるだろう。

周知のとおり、米原子力空母カールビンソンを中心とする空母打撃群は、実際には朝鮮半島に「急派」されたわけではなく、インド洋での演習に向かっていた。国防総省とホワイトハウスの間に連絡ミスがあったとされる。そのため、当初の報道では4月中旬にも北朝鮮近海に展開するとされていたが、実際の到着は25日頃になるという。

そのことが判明したのは奇しくも、ペンス氏が韓国と日本での日程を終えたタイミングでのことだ。トランプ政権が狙ってやったとは言い切れないが、「開戦前夜」の空気さえ漂う中での米副大統領の日韓歴訪は、実に“演出”の効いたものだった。

朝鮮半島の軍事的緊張の根本的な原因が、北朝鮮の核・ミサイル開発の暴走にあるのは言うまでもない。だが、少なくとも今回に限っては、「緊張の場面」を作ったのは米国の側だったと言える。

北朝鮮の金正恩労働党委員長は普段、いつ、どこへ行くかを事前に公表しない。しかし北朝鮮の国営メディアは3月22日の時点で、4月11日に最高人民会議(国会)が開かれることを予告していた。この場に、正恩氏が参加しないはずはない。さらに4月15日は、祖父である故金日成主席の生誕105周年で、その記念行事に正恩氏が現れることも容易に想像できた。実際、正恩氏はこの日の軍事パレードに姿を見せたほか、2日前(13日)に行われていた平壌市内のニュータウン「黎明通り」の竣工式にも参加した。

このようなタイミングで、米空母打撃群が北朝鮮近海に展開すると思われていたのである。トランプ政権は、シリアの化学兵器使用疑惑に対して電撃的に「ミサイル懲罰」を行ったくらいだから、北朝鮮に対しても何をするかわからない――。これが、今回の緊張の下地となったわけだ。

正恩氏の側にも、米国に反発して核実験をしたり、弾道ミサイルを発射したりといったカードがあるにはあるが、それは自分の身を米軍の巡航ミサイルにさらしながらのこととなる。これまで一方的に核実験とミサイル発射を繰り返し、国際社会に攻勢をしかけてきた正恩氏だが、今回は久々に守勢に立たされることになった。

米軍に頼るほかない現実突き付け対価を求めていく戦略か

そういった意味で、たとえ「カールビンソン急派」が演出だったにせよ、トランプ政権が北朝鮮にかけた圧力は本物だった。正恩氏が今後も核実験やミサイル発射を繰り返すなら、トランプ政権は何度でもこうした場面を作り出すのではないだろうか。

気になるのは、トランプ政権のこうした動きが、日韓との経済対話(貿易交渉)とリンクしてくる可能性である。トランプ氏は大統領選の期間中、「日韓は米軍駐留経費を全額払え、さもなくば撤収だ」と言っていたが、当選後はこの主張を引っ込めている。

だが、もしかしたらトランプ氏は持論を撤回したのではなく、単にもっと良い方法――北朝鮮の核の脅威と、米軍のほかに頼るもののない日韓の現実を浮き彫りにしながら、対価を求めていく戦略──を見つけただけなのではないだろうか。

そう考えてみると、「カールビンソン急派」のハッタリはやはり怪しい。米軍の駐留経費すら負担したくないトランプ氏が、何の見返りも求めず、空母打撃群を派遣するための莫大な費用を追加で支払うとは思えないからだ。

(李策)

北方領土交渉が一筋縄ではいかない事情

70年以上解決策が見いだされない北方領土問題。12月15日から行われる日ロ首脳会談で具体的な交渉はスタートするのか。真珠湾訪問など、何かとサプライズ好きな安倍官邸に、北方領土返還に向けてのサプライズ策はあるのか。アメリカでトランプ氏が次期大統領に決まり、世界はドラスティックに動き始めそうだ。注目が集まる中、長年にわたり民間の立場からロシアとの交流を続けている木村三浩・一水会代表(60)に首脳会談の意義などを聞いた。(藤月京)

まず初めに、「本格交渉のスタート」という意味では、12月15日から安倍晋三首相の地元である山口県長門市で行われる日ロ首脳会談が、非常に重要な会談であるということに間違いはありません。いわば、これまでの交渉は前哨戦にすぎず、これからがまさに、日ロ平和条約締結とその後の北方領土返還問題の解決に向けた正念場となるのです。

ロシア報道一色が招いた悲劇

しかし実際のところ、今回の会談で動きが出るのかどうか。

木村 三浩(きむら みつひろ)氏プロフィール

1956年10月19日、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科中退。2000年から「対米自立」「民族自決」を掲げる愛国者団体「一水会」代表。「月刊レコンキスタ」発行人。一般社団法人「世界愛国者交流協会」代表理事。モスクワなどで開かれた世界愛国者会議にも出席。三田文学会、日本ペンクラブ会員。

清原判決後も続く「再犯」危惧の声…水面下で大手芸能プロに動き

5月31日、清原和博被告に、覚せい剤取締法違反で懲役2年6月、執行猶予4年の有罪判決が下った。初犯でもあり量刑じたいは相場どおりだが、清原に関しては、早くも今後を心配する声があがっている。

判決後、TBSの『ゴゴスマ』に出演した作家の田中康夫氏は、「実刑ではなく4年の執行猶予。保護観察もない。自力で更生しなさいと言うようなもの」「より厳しくすることが、彼に対する愛情なんじゃないのか。それを前例がないから新しいことが出来ないというのでは役所の発想です」とコメントしていたが、ファンならずとも最大の心配はやはり「再犯の恐れ」だろう。

もともと覚せい剤使用者の再犯率は高く、50代以上では83.1%に上っている。まして今回の判決では保護観察処分はついていない。薬物依存は自分の意思だけで断ち切ることは難しく、しっかりした周囲のサポートが必要不可欠となるが、離婚している清原には近くで支えてくれる家族もいない。

温存されたシャブ・ルート

清原の更生を危惧する理由は、それだけではない。