鼎談-下-【野間易通+高英起+李策】ネットの匿名言論は理想なんかじゃなかった。このディストピアを変えるには…


野間 そう。日本では匿名性を権力に向けずにマイノリティーを攻撃したり、一般の人々をさらし上げて炎上させるみたいなことばかりが横行してきた。リベラルな人々が思い描いた言論のユートピア(理想郷)とは正反対の、悪意とウソが蔓延するディストピア(暗黒郷)が生まれてしまったんです。

 いまや自由な匿名言論が良い方向に作用するなんて理念を、当のネットユーザーたちはほとんど誰も共有していませんね。

野間 私利私欲、あるいはストレス解消とか安っぽい正義感を満たすために匿名言論を使う人間の方がよっぽど多い。集合知によって差別的な表現が駆逐されるどころか、それに乗っかってくるヤツばっかり。これじゃあマイノリティーが不利になる一方だということを、いいかげん総括せなアカンと思います。表現の自由だとか言論の自由だとかを金科玉条のように振り回している人たちは、そういった大きな時代の変化を把握できていないんです。

2014年の東京大行進に参加した野間易通氏。(撮影:島崎ろでぃ)
2014年の東京大行進に参加した野間易通氏。(撮影:島崎ろでぃ)

李策 状況がこうなってしまったせいで、表現する側にとってもやりにくくなっている部分があります。メディア、とくに雑誌業界には、やや過剰に在日をキャラクター視する傾向があるじゃないですか。私なんかはそれを逆手にとって、在日のアウトローたちに関する原稿なんかを売って来たわけです。

 ヤクザだとか、1980年代のバブル紳士たちの話とかね。

読売新聞あたりもヤバい

 ええ。そういう話に踏み込めるのは、かつて在日がどう生きてきたかを知っている人が大勢いて、彼らが在日に対する“レッテル貼り”みたいなものを阻んでくれると信頼していたからなんです。ところが最近じゃ、そんな都合のいい考えができなくなってきた。アウトローの話に踏み込む前に、むかしの在日がどんな生き方をしてきたかをいちいち説明しなきゃならないんじゃないかと、そんなことが気になりだしてしまって。