JR福知山線事故、二審も社長ら無罪 背景の「労務問題」議論されぬまま


「日勤教育」廃止決定、謎の撤回

乗客106人と運転士が死亡、562人が負傷したJR福知山線(宝塚線)脱線事故で、業務上過失致死傷の罪で強制起訴されたJR西日本の歴代社長3人の控訴審判決が27日、大阪高裁であった。判決は、いずれも無罪(求刑禁錮3年)とした一審神戸地裁判決を支持し、検察官役の指定弁護士の控訴を棄却した。

井出正敬元会長(79)と南谷昌二郎元会長(73)、垣内剛元社長(70)ら3人は、事故現場を急カーブに付け替えた1996年の工事や、現場を走る快速が大幅に増えた97年のダイヤ改正で事故が起きる危険性を認識できたのに、自動列車停止装置(ATS)の設置を指示する義務を怠ったとして起訴された。

これに対し、横田信之裁判長は判決理由で、「事故の直接原因は、運転士のカーブでの異常な速度超過運転。その危険性を予見することは相当困難だ」と述べ、3人に事故発生の具体的予見可能性はなかったと判断した。

事故は2005年4月25日、兵庫県尼崎市のJR福知山線で、急カーブに快速電車が進入し、曲がりきれずに脱線、マンションに衝突して起きた。

事故原因について、国土交通省の事故調査委員会(当時)は、直前の停車駅でオーバーランした運転士が、ミスをした乗務員に課される懲罰的な「日勤教育」を懸念し、注意がそれてブレーキが遅れたことなどを指摘した。

JR西日本では1992年2月の時点で、「日勤教育」に対する恐怖心が乗務員を「ミス隠し」に走らせ、重大事故へと発展する危険性を認識。いったんは「日勤教育」に代表される懲罰的な指導の廃止を決めながら、その決定を実質的に撤回した経緯がある。

決定が撤回された具体的な理由は明らかでないが、「日勤教育」は実質的に、同社労務部門や主流労組による“反主流派つぶし”に利用されてきた事情がある。

しかし事故のこうした側面については、裁判でもメディアでもほとんど議論されていない。そしていま、事故発生から10年となる日を目前に控え、会社トップが誰も処罰されないまま問題の幕が下ろされようとしている。

(取材・文/ジャーナリスト 李策)