北朝鮮アートにまつわる「外貨」と「宗教」と「悪いウワサ」


骨董品のイミテーションと「地下教会」

「北朝鮮から中国へ、国宝級の骨董品が密輸されている」

2005年3月、そんな情報を得た私は、北朝鮮との国境都市、中国・丹東に飛んだ。しかし、現地で巡り合ったのはことごとく、精巧な偽物だった。取材に協力してくれたブローカーは、次のように言っていた。

「中国で、北朝鮮の骨董品が盛んに売買されていたのは十年ほど前までで、現在はほとんどが偽物。しかし美術品としての出来栄えは悪くない。さすが、万寿台創作社のレベルは高いね」

もっとも、噂の真偽については分からずじまいだった。

?一方、北朝鮮におけるアートは、いまや体制に利用されるばかりではなくなっている。

同時期、丹東や延辺朝鮮族自治州の国境の町を歩いていると、キリストや聖母マリアなどの宗教画を土産物として売る屋台があちこちで目に付いた。近くに教会や、キリスト教ゆかりの地があるわけでもないのにである。その訳を、韓国に逃れて洗礼を受けた脱北者が教えてくれた。

「美術やスポーツなど、なんでも英才教育を施す北朝鮮には絵心のある人間がたくさんいる。中国や韓国の宗教関係者が、そういう人々に絵を描かせて買い取りながら布教を行っているんです。北朝鮮の国境地帯には、体制に秘密の『地下教会』がけっこうありますよ」

これまで体制強化の道具に過ぎなかった北朝鮮アートが、いずれ体制変革のきっかけとなる日がくるのだろうか。